絶賛墜落中の空中遊園地

大地とキスするまでに遊び倒せ

オープンワールドの最高峰、TES5 Skyrim

オープンワールドというゲームジャンルがある。
ゲームスタートからゲーム内のどこにでもいけて、プレイヤー自身が好きな様にゲームワールドを探索できるゲーム。
プレイヤーが好きに遊んでいい公園みたいなゲーム。
プレイヤーが自由に旅して回れるゲームの世界。
本当に異世界へ入り込んだかのようなプレイ感覚。
そして押し付けられた行動でなく、自分の好きに遊んでいる、という感覚。
自由。
オープンワールドのゲームの醍醐味だ。



このオープンワールドというジャンルのモンスター、最高峰の作品がskyrimだ。
正式名称『The Elder Scrolls V: Skyrim』、エルダースクロールシリーズの5作目、シリーズファンの間での略称はTES5。
シリーズの中でもTES3 Morrowindから今のような3Dのゲームワールドを自由に探索する形になった。PC版だけで日本語版もないのでPCゲーマー以外での知名度は低いが、今も色褪せることのない傑作。
その次作TES4 oblivionPlayStation3Xbox360でも発売され日本語版もでたので相対的に知名度が高い。ご存知の人も多いはず。


そしてその続編が今作TES5 Skyrim
TES4 oblivionを超えた完成度と内容を持つ、期待に応えてくれた正統続編だ。連番タイトルの最新作はかくあるべき、という見本のような作品だ。元々の良いところを伸ばし、質・両共に高め、よりエンターテイメントとして洗練されている。



Skyrimはとにかくオープンワールドとして圧倒的なボリュームと存在感を持つ。

例えば、高密度に配置された意味あるロケーション。フィールドをウロウロするとあなたの興味をひくものがいっぱいある。
ただの廃屋ひとつとっても調べれば廃屋となるまでの由来が見える。元の持ち主と思しき遺体があり、飼い主に忠誠を尽くし続ける犬が居たりする。錬金術師の素材を育てる畑だったりする。隠された地下が死霊術師のアジトだったりする。燃えた後だと思ったらドラゴンに襲撃されたようだと書き残しで分かったりする。


こんなゲーム的に仕込まれている地形だけが凄いのでもない。
ただのフィールド、普通の地形も同じ場所はひとつもなく(当たり前に思われるかもしれないが、ゲームである以上似た地形はコピー・アンド・ペーストで楽をして作るのが普通だ)、ただその場所その場所を眺めて回るだけでも楽しめる。冗談や酔狂でなく、本気でそれだけを楽しむプレイヤーも居る。それだけの水準だ。


さらにゲーム的な仕掛けに溢れる楽しいダンジョンが大量にある。
ゲーム内で入れる遺跡・墓所・洞窟・砦 etc. 全てがダンジョンでありこちらもひとつとして同じものはない。クエストに関係する大半のダンジョンはもとより、特に該当クエストのない小規模なダンジョンでも探索すれば由来なりゲームワールドでの意味合いなりが見えてくるようになっている。落ちている書物は単なるゲーム世界観を補強する小物の域を超えてゲームワールドにリアリティを与えている。


そしてどこに行っても見かける、生活感あふれるNPC達。
街の住人たちはそれぞれの日常を繰り返し、時間帯によって曜日によっている場所が変わりすることが変わる。隠居した老婦人は日中は街中央のベンチでのんびりしているし、引退した剣士は気がかりがあるのか街中をウロウロしている。ほとんど一日中プロバガンダに励む人もいるし、城壁の外へ畑を耕しに出かけ日が沈むと家に戻ってくる人もいる。
ひとりひとりが自分の暮らしをしている。そんなNPCたちが凄まじい数存在する。
なにせ街の中だけではないのだ。フィールドにも道行く人がいる。街に入れてもらえない獣人族の行商だったり、内戦中の兵士たちだったり、エルフの国の特使たちだったり、ひたすら陽気な吟遊詩人だったりする。
街の外で出会う連中はほんとに多岐にわたるし、山のようにあるクエストをこなしていくとそのぶん種類も増えていく。結構前にクリアしたクエストに関係した特殊な連中に再びであったりする。
あなたがこなした「今まで」の分だけ「これから」の冒険が鮮やかになる。
そんなゲームだ。


そうしてプレイヤー自身がゲームワールド内部に散りばめられている手がかりを掴みとり、ゲームワールドへの理解を進めていく。探索と推理。未知を冒険する感覚。探索しがいある世界を自由に探索して冒険に没頭できる。オープンワールドの醍醐味そのものだ。
ソレをちょっとやそっとでは消費し尽くせない凄まじい物量で用意した。まさにモンスター。
既存のオープンワールドゲームの常識を大きく超えて、オープンワールドと名乗るためのハードルを跳ねあげてしまった怪物だ。
TES5 Skyrim以後のオープンワールドは、これだけの物量を揃えない限り物足りないとの謗りを免れないだろう。

そう、今までのオープンワールドが公園なら、skyrimは遊園地だ。
単独でゲームを名乗れそうなアトラクションが敷地いっぱいに詰まった遊園地。
こんな夢の国で遊んでしまったら最後、もうただの公園じゃ満足できない。



もう一つ挙げておくべき点がある。
TES5 Skyrimは旧作と違いプレイしやすさに関して徹底的に追求されている、ということだ。

例えば今作はゲームスタート直後に決定を迫られるキャラクターのパラメータ選択、といったものはない。やれ職業を決めろだ信仰する神を決めろだ星座を決めろだ、などと突然迫られることはない。あなたのキャラクターがどういったキャラクターとなるかは、全てあなたのゲーム内での行動によって自動的に決まる。あなたが剣ばかり使えば勝手に剣で戦うのに向いた剣士になるし、弓を使えば弓兵になる。魔法に頼れば魔法使いとして成長する。見つけた石碑に触れればその星座の加護を受ける。ゲームを始めた直後のゲームについて無知の状態で何かを決定させられ、その結果を負わされるなどといったことは一切ない。

さらに、ゲームに関してまったく知識がないプレイヤーが一切のストレスを感じることなくゲームワールドを探索できるようになるところまで、きっちりチュートリアルがある。今作のチュートリアルは屈指の出来だ。さらにメインクエストを進めていけばひと通りの世界観がつかめるところまで面倒を見てくれる。
初プレイの人はとりあえず『世界の喉』といわれる山の上まで行くことをおすすめする。そこまでが長いチュートリアルだと言える。


もちろんシリーズ経験者やゲーム慣れしてる人は無視して自由にしてくれて構わない。自由な探索こそ本懐のゲームであることだし、ね。




そうそう、TES5 Skyrimはグラフィック水準の割に軽い。比較的古めのマシンでも動いてしまう。PCにしっかり資金を注ぎ込んでる向きには不甲斐ない点かもしれないが、ある程度入手しやすい非力なマシンでもプレイできるならそれだけ多くの人がプレイできる。そう悪いことでもない。とは言えゲーム機のハードとしての性能に足を引っ張られている格好だし、ゲームワールドを旅して眺めて回るだけで楽しいゲームである以上、グラフィックは良ければ良いほど歓迎される。そういう意味では少し残念かもしれない。
しかし前作TES4 oblivionまでからすると圧倒的に進歩したグラフィック水準でこれだけ軽いというのは、やはり長所と思う。



また前作で退屈だった戦闘も、システムや演出の改善で多少は楽しくなった。
アクションゲームとしては問題外なゲームであるのはTESの常だが、TES5 Skyrimではキルムーブという要素を加えそこを上手くごまかした。相変わらずアクションゲームとしてはお粗末なクリック連打で済む戦闘だが、キルムーブが発動するとカメラワークが変わりトドメ演出が入る。キャラクタもこの時だけ特殊なモーションで動くので、そこそこのカタルシスがある。ドラゴン相手だと結構派手な動きになったりもするので結構楽しめる。




と、ここまでは大絶賛の嵐だが、もちろんダメなところもある。
例えばユーザーインターフェース。コントローラーでプレイする場合はまだしも、マウスとキーボードでプレイすると控えめに言っても発狂しかねない酷いものだ。操作体系がおかしく、ユーザーインターフェイスの見た目から連想する操作で動かない様はイライラする。
さらに見た目重視にしすぎた結果、一覧性を失い利便性を損なったものになっている。装備を選ぶ時キャラクターの全身像が見られないなんてなにを考えたのかわからない改悪もある。
Modでイジれないゲームだったら大問題だったろうなホント。



あとは大味なゲームバランス。
もうこれはシリーズ伝統なので最初から期待していないけど。
今作もなかなかぶっ飛んだバランスとなっており、あらゆる敵を延々とハメ殺したりできるし、特定パラメーターだけ高めたらあっという間に無双状態になるし、攻撃魔法以外の魔法のほうが攻撃的だったりするし、ゲーム的に最適解を探して極端なパラメーターに育てたりすると、シリアスにプレイし続ける気がなくなるシュールな状態になる。

極端なことをせず、探索するまま自然に伸びるパラメーターに任せてキャラクターを育成することをおすすめする。





いかがだろうか。
確かに欠点もあるし、あらゆる人が楽しめるようなゲームでもない。
しかし、徹底的に作りこまれたゲームワールドをプレイヤー自身の判断により好きなだけ探索し調査し冒険し尽くす。それこそが楽しみだというプレイヤーには今すぐプレイして欲しい超大作だ。
ゲームの攻略情報など一切見ず、自分の力でゲーム内の疑問を探求したい。
そんなアドヴェンチャー好きにこそプレイして欲しい。
最高の冒険がタムリエルの一地方、スカイリムにて待っている。
さぁ出口を抜けて冒険へと向かおう。

へ スカイリム

FPSのふりをしたハックアンドスラッシュ系RPG、Borderlands2

Borderlands2の話をしよう。
FPSというジャンルにハックアンドスラッシュの要素を加えたゲームと評されることが多いゲームで、プレイしてみると他にないプレイ感覚で面白いゲームだ。"ハックアンドスラッシュ要素を加えた"とある通り、敵を倒すと装備をポロポロドロップし、そうやって手に入れたより強い武器を装備しさらに戦闘に明け暮れる、と言ったゲームだ。いわゆるトレハン、が楽しいゲームといえる。
ただ、個人的にはこのゲームはFPSではない。ので、FPSだけはプレイするといったゲーマーにはオススメすべきか悩ましいゲームでもある。その辺が伝わるレビューを書きたいと思う。



Borderlands2を一言で表すとFPSライクなRPGだ。FPSと認識している人は多いと思うけど、FPSプレイヤーとしてはこいつはFPSっぽいRPGだなという認識になる。
確かに操作はFPSだ。プレイ動画やプロモーションビデオを見た人はFPSだと認識しても仕方がない。しかし実際にプレイしてみるとFPSプレイヤーとしての操作技術よりも、操作キャラクターのレベルやスキル、それから装備の性能、そちらのほうがモノを言うことがわかる。レベル差が一定以上ある状態で普通の武器を使うとたとえなんどもヘッドショットを決めても敵を倒せない。キャラクターのステータス差が操作技術でひっくり返せない以上、Borderlands2はRPGだ。
つまり、FPSプレイヤーとしての操作技術を高める努力より先に、キャラクターを育てて良い装備を手に入れてしっかりと準備をする、RPG的なプレイを覚える必要があるということ。レベル上げや装備入手のためのトレハン、そういった部分を楽しめる人――一般的にはRPGプレイヤー――にこそ向いてるゲームだ。

さらにゲームの進行も一面クリアして次の二面へみたいな形ではなく、自由に移動できるマップの上でクエストを受け解決していくことで物語が進行していくスタイルになっている。ストーリーが動いていくメインのクエストとは別に大量のサブクエストが存在し、そちらを含めてこなしていくことで広いフィールドの隅々まで探索することになる。
もちろんゲームのジャンルでもオープンワールドと名乗ってないことから分かる通り、オープンワールドとして自由にさまよえるわけではないし、また能動的にうろついて探索してまわるほどフィールドが作りこまれているわけでもない。基本的に拠点の街以外にいるのは敵だ。どこに行ってもひたすら撃ち合いをするつもりでいて欲しい。つまり、オープンワールドではなくフリーラインな任意進行のゲームだ。

レベルを上げてスキル構成を練り良い装備を整えていく点と、クエストを進めていきながら新しいマップを探索していく点、以上の二点でプレイ感覚はまごうことなきRPGだ。
操作自体はFPSなのでこの感覚は結構新鮮だ。


とは言えここまでは前作Borderlandsでも同じ。しかしBorderlandsは正直イマイチなゲームだった。前作とBorderlands2との差はどこにあるのか。



一番はフィールドの作りにあるだろう。前作ではスタート地点のマップはかなり広く、その中に沢山配置されている他のフィールドへとクエストに従って攻め込み帰ってくるというのを繰り返す形だった。これが良くなかった。同じ道をひたすら行ったり来たりしつづけ、代わり映えのしない風景をひたすら見続けるハメになる。
正直、飽きる。

それに引き換え今作Borderlands2ではスタート地点からしばらくは一本道で、要所要所でボスを倒しつつ進んでいくスタイルになっている。先へ先へと進むのでゲームが進んでいると理解しやすく、飽きがこない良い作りだ。

さらに前作ではあってないようなものだったストーリーが、今作では十分ストーリーRPGを名乗れそうな程度に組まれており、前作を上手く踏み台……いや伏線として昇華し、物語になんども山場を与えプレイヤーにある程度の緊張感と先への興味を持たせることに成功している。特に普段国産のRPGをやる向きはこの点で随分とプレイしやすくなったのではなかろうか?
ちなみに踏みd……伏線として昇華された前作のことはぶっちゃけわからなくても問題ないストーリーなのでBorderlands2をプレイするためだけに前作のBorderlandsをプレイする必要はない。


さらにゲームバランスがいい意味でヌルくなったのも良い。
前作はFPSに慣れてるプレイヤーが敵よりレベルを上げている状態でも、いい武器を入手できないと戦闘がかなり苦しかった。レベルもサクサクとクエストを進めている状態ではボスより上になることもなく、レベル上げとトレハンを兼ねた育成作業が前提のバランスだった。
それに対してBorderlands2はサブクエスト含めすべてのクエストをこなすとレベルは十分高い状態を維持できるし、クエスト報酬の武器で十分以上の性能を持つしで、事実上育成作業なしでゲームクリアまでいけるバランスになっている。ハッキリ行って長丁場なメインクエストライン、淡々とクエストをこなしていくだけでも結構なプレイ時間が必要だ。作業なしでサクサク進むというのはプレイのテンポを良くし、結果としてゲームを面白くしている。


元々の着想は良かったBorderlandsのプレイしづらさに繋がっていた要素を丁寧に修正し、誰でもプレイしやすく楽しみやすいゲームへと昇華したのがBorderlands2だと言えるだろう。



さらに、Borderlands2を語る上で忘れてはいけない要素がCOOP(オンライン協力プレイ)だ。
Borderlands2は基本的にはシングルプレイで楽しみながらクリアできるゲームだが、COOPでプレイすることでさらにおもしろくなるゲームでもある。シングルプレイで遊ぶ全てのフィールド・クエストでそのままCOOPが可能で、ホストのワールドに他の参加者が入り込んでプレイする形になる。
知り合いとはスムーズにCOOPできるし、知らない人とプレイするのもマッチングが良くできてるので問題なく可能だ。COOP可能でもマッチングが不出来だと実質的にシングル専用になってしまったりするので、こういう部分がしっかりしているのは大事だ。

他によくできていると思うのがCOOP時のバランス調整で、COOPするとなんと敵が強くなるのだ。その分ドロップも良くなるのでトレハン的には美味しい。しかしゲームの難易度自体は上がるので効率的な作業としてトレハンをするのにCOOPは向かない。ここが良く練られていると思う所だ。なぜかというと、COOPをすることで結果として難易度が下がるゲームでは得てして効率よいプレイのためのCOOPというものがはびこり、プレイヤーの間にギスギスした空気を作り出してしまうものだからだ。COOPした方がより早く欲しい結果にたどり着く、と論理的に結論付けられれば皆がそうしようとするのはもう仕方がない。しかしBorderlands2はCOOPするとむしろ難易度が上がるので効率よいCOOPをしないといけない、みたいな空気はあまりないと感じる。その分ゲームを楽しむことに集中できる。



他には、ユーザーインターフェースが見やすいのもいい。操作しやすいし一覧性もよく使い勝手もなかなかだ。
さらにPCでも破綻はしてない操作性なのもポイントだ。どうもPC版向けにマウスとキーボードで操作するユーザーインターフェースを作らない・調整しないゲームが散見される昨今、この点はPCゲーマーとして大変ありがたい。



さて、ここまでで伝わっただろうか。Borderlands2はFPS畑の人だけでなく、FPSが苦手なRPG好きの人にこそ勧めたいゲームであると。
FPSとして愉快な撃ち合いを期待すると肩透かしなバランスのゲームだから、FPSゲーマーよりRPGゲーマー向けだと思う。



ただし、クリア後にできるTrue Vault Hunter Mode(いわゆる2週目、ハードモード)は別だ。
攻撃力・防御力に関する部分に修正が入り(属性の有効性が変わる。詳しくは調べるよろし)、敵の配置も変わる。一周目には見たこともない強化された敵が出てくるようになり、属性を上手く切り替えながら戦わないとクリアもおぼつかないバランスに変貌する。
この状態ならFPSゲーマーもなかなか楽しめるバランスだと思う。
ただし、二周目以降はトレハンやレベル上げは攻略のためには必須だと思ったほうが良い。そういった意味では、一周目は壮大なチュートリアルだった、という言い方もできるかもしれない。

さらに。最近のパッチで最高レベルが上がり、3週目も実装された。正直ゲームバランスがFPSとしていいかどうか疑問な状態になっているが二周目クリア後もまだまだ物足りないと思っていた向きは終わることのないトレハンを楽しまれるといいだろう。




そんな訳でBorderlands2は、FPSのふりをしたハックアンドスラッシュ系RPGとしてオススメだし、延々と続くトレハンとシングルFPSの戦闘が好みの向きにもオススメ(その場合、本番は2週目以降)だ。
ボリュームたっぷりのゲームだしDLCも大型のものが3つ出ていてさらに後1つ予定されている。簡単にはやりつくせないゲームをお探しの向き、FPSはやったこと無いけどRPGは好きという向き、ぜひ手にとって見てはいかがだろうか?

自爆した未完成作品 Dragon's Dogma

オープンワールドというゲームジャンルがある。
普通のゲームが与えられるステージを順番にクリアしていく遊園地のアトラクションみたいなゲームだとしたら、オープンワールドのゲームは好きに遊んでいい公園だ。プレイヤーが自由に旅して回れるゲームの世界。本当に異世界へ入り込んだかのようなプレイ感覚。そして押し付けられた行動でなく、自分の好きに遊んでいる、という感覚。
自由。
オープンワールドのゲームの醍醐味だ。
そんなオープンワールドというジャンルのモンスター、最高峰の作品にskyrimというゲームがある。今までのオープンワールドが公園なら、skyrimは遊園地だ。単独でゲームを名乗れそうなアトラクションが敷地いっぱいに詰まった遊園地。既存のオープンワールドゲームの常識を大きく超えて、オープンワールドと名乗るためのハードルを跳ねあげてしまった怪物だ。



さて、そんなオープンワールドというジャンルに、ある一つのゲームが勝負を挑んだ。
その名はDragon's Dogma。
オープンワールド『アクション』というジャンルを主張する姿に、オープンワールドのファンは胸を躍らせた。
なにせ既存のオープンワールド最高峰たるskyrimには「アクションゲームとしてあまりにお粗末」という欠点があったからだ。そこにモンスターハンターストリートファイターを生み出したカプコンが挑む。
オープンワールドのゲームはほとんど――いや、ほぼ全てが、海外製だ。
国内のゲーム会社がオープンワールドを作れるなら、国産ゲームの潮流も変わるかもしれない。
そんな期待すら生まれた。



さて、そんな盛り上がりの中で手にとったDragon's Dogmaはどんなゲームだったか。
実に優れたアクションゲームだった。まさにジャンル『アクション』のゲームだった。
だが、全く、これっぽっちも、オープンワールドではなかったのだ。
なかったんだ。



Dragon's Dogmaはアクションゲームとしては近年稀にみる傑作といって良い。
爽快感と難易度の塩梅が素晴らしい。ボタン連打で勝てるヌルさなどなく、しかし比較的簡素な操作で様々な動きが気持よくできる。
操作して気持ちが良い、というのはゲームを面白くする根幹で、二流のメーカーがなかなか達成できない項目だ。
自キャラを囲んできた盗賊をなぎ払う爽快感。しかし一つ読み違えれば両手剣の叩きつけの元、一撃で雑魚キャラたる盗賊にも殺されてしまう緊張感。アクションゲームの醍醐味を完全に享受できる傑作だ。

だた、それは序の口だ。Dragon's Dogmaの醍醐味は大型ボス戦にある。
フィールドをさまよっている大型ボスとの戦いはDragon's Dogmaでしか味わえない素晴らしいものだ。
モンスターごとに独自の動き・戦い方・特徴を持ち、ボス一つ一つを攻略していく楽しみがある。だけなら、既存のゲームにいくらでも類例がある。
だがDragon's Dogmaはここにしがみつき、という要素を加えた。任意のタイミングで敵にしがみつき、よじ登って位置取りを自由に取りつつ弱点をついたり部位破壊したりできる。
またこのしがみつきにボスも上手い反応を返してくる。単にしがみつくだけなら簡単に対応され大ダメージを被ったりする。しかし味方の攻撃にタイミングを合わせたりといった工夫で上手く攻撃し続けたり、しがみついたこちらへの対応を逆手に取って弱点を露出させるといった駆け引きが楽しめる。

シングルプレイヤーのアクションゲームにおいて、敵とはプレイヤーに攻略されるための存在だ。
Dragon's Dogmaのボスはまさに、攻略されるために様々な工夫を要求する優れた敵だと言える。




アクションゲームとして最高峰の戦闘が楽しめるDragon's Dogma。
もしこのゲームが単にアクションゲームとして宣伝されていれば、なかなかの評価を得たのではないかと思う。
しかし、このゲームはオープンワールドとして宣伝してしまった。
また、実際にプレイしてオープンワールドを作ろうとした意欲も汲み取れた。

しかし。
残念ながら、Dragon's Dogmaはオープンワールドを名乗るに値しないゲームだった。




一番の問題は、公園を期待されるオープンワールドゲームなのに、中身がただの空き地だったことだろう。
遊具など無い、ただの空き地。たまたま建材の土管が積んであったので少しは遊べる気がしたけれど、公園には足りない。遊園地との比較などもっての外だ。


Dragon's Dogmaの世界には街が二つしか無い。
スタートする田舎の漁村と領都の二つ。ゲーム内の世界は広いのに街が二つだけではスカスカだ。かと言ってダンジョンがあふれているわけでもない。フィールドは広いだけでなにもないスカスカの世界。

さらにマズイのが街の作りこみ。
漁村はすべての建物の中に入れるからまだマシだが、領都の方はゲームで立ち寄る必要のある建物以外は全て中身が無いハリボテ。背景が全てタダの絵であるのとなにも変わらない。いや、絵なら触れられないとあきらめが付く分まだマシだ。オープンワールドと宣伝し遠目にたくさんの建物がある街と見せかけておいて、実態はハリボテとは肩すかしどころじゃない。最初の漁村には曲がりなりにも中身があったから、なおさらハリボテである事実にはがっかりさせられた。

さらにNPCもクエストで必要なキャラと店などの役割を持つキャラがほとんど。
街を歩いてるNPCは普段どこに住んでいるのかもわからない。こんなのただ突っ立てるだけのNPCとなんら変わらない、普通のゲームの普通のNPCだ。オープンワールドのNPCじゃない。
細部まで作りこんだフィールドだけではオープンワールドの世界をプレイヤーに生きた世界と認識させるに足りない。そこに存在するNPCとの交流が必要だ。
プレイヤーがなにもしなくてもアチコチ移動し生活感を醸し出すNPC。
朝家から出てきて畑を耕し昼に休憩し午後は醸造所へとれた果物を運び日が暮れると街に戻り酒場で食事をした後暗くなった街を歩き自宅へと戻るNPC。ゲーム的にはただのモブキャラクター、特にクエストにも絡まない。そんなNPC相手だからこそクエストを受け関わることが楽しみになる。
棒立ちでクエストの受注や店舗機能を果たすだけならただの掲示板や自動販売機であって、生きた世界の生きたキャラクターではない。

スカスカのフィールドも肩すかしだった。
プレイヤーに探索されるべきダンジョンや遺跡といった意味あるロケーションが少ない。少なすぎる。しかもほとんどがメインクエストの進行によって侵入する場所。
自分の好きにフィールドをさまよいたいオープンワールドファンにとって、全くさまよう理由のないフィールドだ。


ハリボテの街、ただ突っ立てるだけのNPC、スカスカのフィールド。
オープンワールドと言われて期待されるそれと、Dragon's Dogmaは違いすぎた。


さらにフォローが難しいことに、Dragon's Dogmaにはアチラコチラに開発の途中で実装を断念した要素の存在を匂わせる作りかけの部分があふれていた。
前述の中身が無いハリボテの街がその筆頭。ゲーム序盤で関わった後、二度と行くことがない鍛冶屋。ストーリー進行で関わる他の国の重要人物たちや国外へと脱出する姫が存在を匂わせる他国。
大きなところはこの辺だが、細かい部分を見ていくとどんどん出てくる『本当に作ろうとしていたゲーム』の面影。



ただのゲーマーにはなにがあったのかはわからない。だが、作ろうとしたゲームを完成させられず発売したと感じさせられた事実は、そのまま信頼をごっそりと損ねていった。


ついでに言えば国産のゲームのくせに音声は英語だけだったり、そのくせ主題歌は国内大物アーティストのB'zだったり、一体どこの国の誰に向けて作って売るつもりだったのかわからないところも怒りを誘った。



オープンワールドと言わず、クエスト進行とフィールドの移動にある程度の自由があるフリーラインのアクションゲームとして売っていればよかった。いっそただのアクションゲームとして控えめに売ればよかった。
だだっ広いスカスカフィールドに溢れかえる敵との延々と続く戦闘を楽しめる生粋の戦闘狂にはこれほど楽しいゲームもない。山のように散見される未完成要素もオープンワールドやRPGとしての欠陥ばかりであり、純粋なアクションゲームとして見れば特にあるはずなのに足りない要素、というものもない。

結局のところ、Dragon's Dogmaは自爆してしまったのだ。作ろうとしたものを作りきれず、できあがった物を売らざるべき者へ売ってしまった。もしかしたら、作ろうと志した通りのものができあがれば、オープンワールドファンにこそ売るべきゲームだったのかもしれない。しかし、実態が未完成品である以上、それは誰にもわからないことだ。ただ、自爆したという結果だけが残った。




さて。オープンワールドとしてみた限り話にならないDragon's Dogmaだが、売上はそこまで悲惨でもなかったみたいだし、アクションゲームとしては傑作だし、完全版という名の拡張同梱版もでる。プロジェクトとして新規IPとしてコケずにいるみたいだ。一度の自爆にめげず、頑張って『本当はこんなゲームを作ろうとしていたんだ』という完成品のDragon's Dogmaを見せて欲しいと思う。