自爆した未完成作品 Dragon's Dogma
オープンワールドというゲームジャンルがある。
普通のゲームが与えられるステージを順番にクリアしていく遊園地のアトラクションみたいなゲームだとしたら、オープンワールドのゲームは好きに遊んでいい公園だ。プレイヤーが自由に旅して回れるゲームの世界。本当に異世界へ入り込んだかのようなプレイ感覚。そして押し付けられた行動でなく、自分の好きに遊んでいる、という感覚。
自由。
オープンワールドのゲームの醍醐味だ。
そんなオープンワールドというジャンルのモンスター、最高峰の作品にskyrimというゲームがある。今までのオープンワールドが公園なら、skyrimは遊園地だ。単独でゲームを名乗れそうなアトラクションが敷地いっぱいに詰まった遊園地。既存のオープンワールドゲームの常識を大きく超えて、オープンワールドと名乗るためのハードルを跳ねあげてしまった怪物だ。
さて、そんなオープンワールドというジャンルに、ある一つのゲームが勝負を挑んだ。
その名はDragon's Dogma。
オープンワールド『アクション』というジャンルを主張する姿に、オープンワールドのファンは胸を躍らせた。
なにせ既存のオープンワールド最高峰たるskyrimには「アクションゲームとしてあまりにお粗末」という欠点があったからだ。そこにモンスターハンターやストリートファイターを生み出したカプコンが挑む。
オープンワールドのゲームはほとんど――いや、ほぼ全てが、海外製だ。
国内のゲーム会社がオープンワールドを作れるなら、国産ゲームの潮流も変わるかもしれない。
そんな期待すら生まれた。
さて、そんな盛り上がりの中で手にとったDragon's Dogmaはどんなゲームだったか。
実に優れたアクションゲームだった。まさにジャンル『アクション』のゲームだった。
だが、全く、これっぽっちも、オープンワールドではなかったのだ。
なかったんだ。
Dragon's Dogmaはアクションゲームとしては近年稀にみる傑作といって良い。
爽快感と難易度の塩梅が素晴らしい。ボタン連打で勝てるヌルさなどなく、しかし比較的簡素な操作で様々な動きが気持よくできる。
操作して気持ちが良い、というのはゲームを面白くする根幹で、二流のメーカーがなかなか達成できない項目だ。
自キャラを囲んできた盗賊をなぎ払う爽快感。しかし一つ読み違えれば両手剣の叩きつけの元、一撃で雑魚キャラたる盗賊にも殺されてしまう緊張感。アクションゲームの醍醐味を完全に享受できる傑作だ。
だた、それは序の口だ。Dragon's Dogmaの醍醐味は大型ボス戦にある。
フィールドをさまよっている大型ボスとの戦いはDragon's Dogmaでしか味わえない素晴らしいものだ。
モンスターごとに独自の動き・戦い方・特徴を持ち、ボス一つ一つを攻略していく楽しみがある。だけなら、既存のゲームにいくらでも類例がある。
だがDragon's Dogmaはここにしがみつき、という要素を加えた。任意のタイミングで敵にしがみつき、よじ登って位置取りを自由に取りつつ弱点をついたり部位破壊したりできる。
またこのしがみつきにボスも上手い反応を返してくる。単にしがみつくだけなら簡単に対応され大ダメージを被ったりする。しかし味方の攻撃にタイミングを合わせたりといった工夫で上手く攻撃し続けたり、しがみついたこちらへの対応を逆手に取って弱点を露出させるといった駆け引きが楽しめる。
シングルプレイヤーのアクションゲームにおいて、敵とはプレイヤーに攻略されるための存在だ。
Dragon's Dogmaのボスはまさに、攻略されるために様々な工夫を要求する優れた敵だと言える。
アクションゲームとして最高峰の戦闘が楽しめるDragon's Dogma。
もしこのゲームが単にアクションゲームとして宣伝されていれば、なかなかの評価を得たのではないかと思う。
しかし、このゲームはオープンワールドとして宣伝してしまった。
また、実際にプレイしてオープンワールドを作ろうとした意欲も汲み取れた。
しかし。
残念ながら、Dragon's Dogmaはオープンワールドを名乗るに値しないゲームだった。
一番の問題は、公園を期待されるオープンワールドゲームなのに、中身がただの空き地だったことだろう。
遊具など無い、ただの空き地。たまたま建材の土管が積んであったので少しは遊べる気がしたけれど、公園には足りない。遊園地との比較などもっての外だ。
Dragon's Dogmaの世界には街が二つしか無い。
スタートする田舎の漁村と領都の二つ。ゲーム内の世界は広いのに街が二つだけではスカスカだ。かと言ってダンジョンがあふれているわけでもない。フィールドは広いだけでなにもないスカスカの世界。
さらにマズイのが街の作りこみ。
漁村はすべての建物の中に入れるからまだマシだが、領都の方はゲームで立ち寄る必要のある建物以外は全て中身が無いハリボテ。背景が全てタダの絵であるのとなにも変わらない。いや、絵なら触れられないとあきらめが付く分まだマシだ。オープンワールドと宣伝し遠目にたくさんの建物がある街と見せかけておいて、実態はハリボテとは肩すかしどころじゃない。最初の漁村には曲がりなりにも中身があったから、なおさらハリボテである事実にはがっかりさせられた。
さらにNPCもクエストで必要なキャラと店などの役割を持つキャラがほとんど。
街を歩いてるNPCは普段どこに住んでいるのかもわからない。こんなのただ突っ立てるだけのNPCとなんら変わらない、普通のゲームの普通のNPCだ。オープンワールドのNPCじゃない。
細部まで作りこんだフィールドだけではオープンワールドの世界をプレイヤーに生きた世界と認識させるに足りない。そこに存在するNPCとの交流が必要だ。
プレイヤーがなにもしなくてもアチコチ移動し生活感を醸し出すNPC。
朝家から出てきて畑を耕し昼に休憩し午後は醸造所へとれた果物を運び日が暮れると街に戻り酒場で食事をした後暗くなった街を歩き自宅へと戻るNPC。ゲーム的にはただのモブキャラクター、特にクエストにも絡まない。そんなNPC相手だからこそクエストを受け関わることが楽しみになる。
棒立ちでクエストの受注や店舗機能を果たすだけならただの掲示板や自動販売機であって、生きた世界の生きたキャラクターではない。
スカスカのフィールドも肩すかしだった。
プレイヤーに探索されるべきダンジョンや遺跡といった意味あるロケーションが少ない。少なすぎる。しかもほとんどがメインクエストの進行によって侵入する場所。
自分の好きにフィールドをさまよいたいオープンワールドファンにとって、全くさまよう理由のないフィールドだ。
ハリボテの街、ただ突っ立てるだけのNPC、スカスカのフィールド。
オープンワールドと言われて期待されるそれと、Dragon's Dogmaは違いすぎた。
さらにフォローが難しいことに、Dragon's Dogmaにはアチラコチラに開発の途中で実装を断念した要素の存在を匂わせる作りかけの部分があふれていた。
前述の中身が無いハリボテの街がその筆頭。ゲーム序盤で関わった後、二度と行くことがない鍛冶屋。ストーリー進行で関わる他の国の重要人物たちや国外へと脱出する姫が存在を匂わせる他国。
大きなところはこの辺だが、細かい部分を見ていくとどんどん出てくる『本当に作ろうとしていたゲーム』の面影。
ただのゲーマーにはなにがあったのかはわからない。だが、作ろうとしたゲームを完成させられず発売したと感じさせられた事実は、そのまま信頼をごっそりと損ねていった。
ついでに言えば国産のゲームのくせに音声は英語だけだったり、そのくせ主題歌は国内大物アーティストのB'zだったり、一体どこの国の誰に向けて作って売るつもりだったのかわからないところも怒りを誘った。
オープンワールドと言わず、クエスト進行とフィールドの移動にある程度の自由があるフリーラインのアクションゲームとして売っていればよかった。いっそただのアクションゲームとして控えめに売ればよかった。
だだっ広いスカスカフィールドに溢れかえる敵との延々と続く戦闘を楽しめる生粋の戦闘狂にはこれほど楽しいゲームもない。山のように散見される未完成要素もオープンワールドやRPGとしての欠陥ばかりであり、純粋なアクションゲームとして見れば特にあるはずなのに足りない要素、というものもない。
結局のところ、Dragon's Dogmaは自爆してしまったのだ。作ろうとしたものを作りきれず、できあがった物を売らざるべき者へ売ってしまった。もしかしたら、作ろうと志した通りのものができあがれば、オープンワールドファンにこそ売るべきゲームだったのかもしれない。しかし、実態が未完成品である以上、それは誰にもわからないことだ。ただ、自爆したという結果だけが残った。
さて。オープンワールドとしてみた限り話にならないDragon's Dogmaだが、売上はそこまで悲惨でもなかったみたいだし、アクションゲームとしては傑作だし、完全版という名の拡張同梱版もでる。プロジェクトとして新規IPとしてコケずにいるみたいだ。一度の自爆にめげず、頑張って『本当はこんなゲームを作ろうとしていたんだ』という完成品のDragon's Dogmaを見せて欲しいと思う。