絶賛墜落中の空中遊園地

大地とキスするまでに遊び倒せ

艦これのゲームメカニクスが抱える矛盾が生む「運ゲー」という批判

『艦これ』はカジュアルなキャラゲーの皮をかぶった本格Strategyだ - 絶賛墜落中の空中遊園地

艦これは突き詰めると

  • 資源の戦力変換効率を高める内政
  • できるだけ目の少ないサイコロを用意して振る博打の戦闘

の2種類からなるゲームだ。

このことを踏まえて、ちょっと艦これが抱えるゲームメカニクス上の矛盾点を指摘しよう。

艦これは運ゲー

艦これの戦闘は戦術級の細々としたことに提督が一切関われないデザインだ。関われない以上、提督にとって艦これの戦闘は勝手に結果だけをつきつけられる運ゲー、という認識になっても、まぁ無理はない。

しかし、注意深く戦闘の準備と結果を突き合わせながら分析していくと、より適切な準備、より適切な作戦があることが見えてくる。

適切な準備と作戦があれば、戦闘の結果は有意に望ましい結果が増える様にデザインされている。

例えば、艦隊にどのような艦種をどれだけ組み込むか?

例えば、艦にどのような装備をどれだけ載せるのか?

例えば、艦隊の編成順はどのようにするのが適切なのか?

例えば、陣形選択はどれを選択するべきか?

そして、戦闘の結果を踏まえて、進撃するべきか撤退するべきか?

提督は戦闘の最中には一切関われないが、その前後の全てを委ねられている。現場の兵士じゃなくてあくまで指揮官であるということ。適切な準備をし、作戦を立て、出た結果の責任を負う。理想化・抽象化された指揮官のあり方というやつだ。

艦これはできるだけ目の少ないサイコロを用意して振る博打

艦これは戦闘前の準備と作戦でほどんな戦闘が起こるかが決まる……ということがない。結果はともかく、過程はどれだけ準備をしどれだけ綿密に作戦を立てても定まらない。

サイコロを振らない、振るまでもなく全てが定まる、という状態は艦これにはない。

適切な準備、適切な作戦というのは、戦闘で振るサイコロを選ぶ行為だ。当たりが1だけの博打で、1から32まで書いてある32面ダイスを振るより1から12までの12面ダイスを振るほうが圧倒的に有利だし、1から6までの普通の6面ダイスならより有利だ。裏表しかないコインなら本来の確率からどれだけ有利になった?

しかし、あなたはサイコロを振らなければならない。

艦これの戦闘は、そういう意味では確かに運ゲーだ。適切なサイコロを選ぶことはできるが、サイコロを振ることからは逃げられない。しかし、だからこそ面白い。

艦これにおける「難しい戦闘」とは?

ところで、艦これにおける難しい戦闘とはなんだろうか?

結論から言うと

  • 最善のサイコロを用意するのが難しく
  • 最善のサイコロでも要求される試行回数が多い

戦闘の事になる。

どんなサイコロを振っても大差ないなら艦これの戦闘にはろくなゲーム性が残らない。それが5-2までの全ての通常海域と夏イベント海域の事だった。対してゲームを理解していなくても適当に火力をぶつければ十分現実的な試行回数でクリアできる。戦艦と雷巡と空母をぶつけとけ。頭をつかう余地はない。とまで言うと言い過ぎであるが。実際クリアするだけならそんな程度の認識で十分だ。

そしてそろそろ艦これに提督が慣れてきただろうタイミングを見計らって投入されたのが5-3や秋イベント海域という「夜戦海域」だった。適切なサイコロを用意しないとクリア自体ままならない。適切なサイコロでも決して楽にはならない。今まで何も考えていなかった提督にとって、5-3(と秋イベント海域)は突然現れた理不尽にクリアしづらい海域、と映っただろう。

ではメカニクスを理解してたプレイヤにとっては?

初めてサイコロの選択に意義が生まれた面白い海域、だ。今までは最善のサイコロを選択しても自己満足以上はなかった。しかし初めて「サイコロを選ぶ能力」がなければクリア自体が怪しい海域が来た。更に最善のサイコロを振っても容易に結果が得られるほど勝算が高くない。正しいサイコロを振ってると確信しなければ、試行回数を稼ぐのはなかなかつらい。

こういった事実は、プレイイングスキルを鍛えていた提督にとっては初めてその努力が報われる気分の良いものだっただろう。

なぜ運ゲーと呼ぶことが誹謗中傷であるかのごとく言われるのか?

しかし夜戦海域はさっくりクリアできなかった提督に「運ゲー」と罵られがちだ。ここまでの話で艦これが運ゲーであること、それ自体が艦これのメカニクスそのものだとは理解してもらえたと思う。つまり「艦これは運ゲー」という主張はただの事実を述べただけにすぎない。コップに向かってコップと言ってもそれは罵ったことにはならない。なのに、なぜ罵倒したつもりで運ゲーと言うのだろうか。

これは、艦これのデザインに原因がある。

提督は戦闘の最中に一切操作できない。見てるだけである。つまり、戦闘の結果は自分の操作によってもたらされたものではない。艦娘たちは勝手に戦い、戦艦が駆逐艦を殴り、旗艦だけ綺麗に撃ち漏らし、ゲージを減らせず帰還する。それは全てゲーム側が勝手にやることだ。

……というのが間違いだというのは、先述の通りなので繰り返さない。戦闘中に操作はしないが、戦闘中に行われる判定は全て事前の準備と作戦によって大きく影響を受ける。見える結果だけじゃなく、見えない内部でどんなロジックでどんな判定がくだされているのか、そこに想像が向くと面白くなる。それが艦これの戦闘だ。

しかし、Strategyに不慣れな人はなかなかこの点、理解できないのではないだろうか?

いや楽勝でしょ? と言うのは相応にゲーム慣れしたStrategyゲーマーの感覚だ。ふつーの人にとって、勝手に押し付けられる結果を自分の責任だと分析して理解するのは困難だろう。それは指揮官ごっこであるゲームの、よりレベルの低い要求水準でも変わらない。これができる人いっぱいいたら、世の中はもっと良くなるって。

この辺は、カジュアル向けにアレンジしたStrategyである艦これにとっては、デザイン上の欠陥といえる。

ゲームの作り手側の理屈で言うと「プレイヤーが全く関われない部位ってのは良くない、自分が関われない部分によって出た結果というのは押し付けられたものとプレイヤーは感じる。可能な限りプレイヤーに操作という形で結果が出る過程に関わらせる必要がある」ってやつだ。

いや、自分はただのイチゲーマーなんで、これは(何人かの尊敬すべきゲームを生み出した)ゲーム開発者の言葉を上っ面で理解した気になってテキトーに趣旨を大雑把に引っ張ってきただけだが。艦これの戦闘が運ゲーなどと言われている理由はだいたいそんな感じだと思う。

ただここまでだと理由の半分だ。

衝突する内政側のメカニクスと戦闘側のメカニクス

艦これは内政面で言うと兵站のゲームだ。もう少し突っ込んだ言い回しだと「資源の戦力変換効率を高める」ゲームだ。要するに「無駄遣いをするな」というゲームだということ。

そして、戦闘は運ゲーだから回数をこなして期待値通りの結果を引き出す必要がある。回数が少ないうちはただの博打である。つまり、リトライが必要ということ。

この2つが、見事に相克する。

試行回数を重ねてほしい結果を引き出すまでの間繰り返される失敗、これは局所的には無駄だ。少なくとも完全にゲームを見切り、現状振ってるサイコロが一番有利なサイコロだと確信できていない限り無駄にしか感じられない。より適切なサイコロが存在しないと断言できるほどの経験と思慮がなければ、失敗は常に無駄である可能性を含む。それが必要な支払いなのか、圧倒的無駄なのかは、経験と思慮によってのみ判定できる。

よーするに、艦これというゲームを見切った提督以外にはリトライし続ける過程は無駄に見える。これは、無駄遣いを排除する内政面でのゲーム性をきちんと理解しているほど顕著だ。つまり、きちんと内政面のメカニクスを理解しているほど戦闘では苦痛を感じるデザインになってしまっている、という訳だ。

戦闘中の処理が戦闘時の表示を見ていてもよくわからない

艦これの戦闘メカニクスはそうそう簡単に見切れない。理由は2つ。

  • マスクデータが多い
  • 結果が提督に感じ取れるフィードバックが少なすぎる

放った攻撃が当たらなかったのか効果がなかったのか分からない(どちらもMissと表記される)し、当たらなかった場合こちらがあさっての方向へ向けて攻撃したのか相手に回避されたのか分からない(こちらの索敵・命中が足りな過ぎるのか、相手の回避が高いのか分からない)。ダメージをじっと見ていても有効打を放ったのか無益な一撃だったのか判別できない(40を超えたダメージは全てCritical表記)(一応、ヒット音を効いてればある程度の類推は効くが……)。

そも、艦のパラメーターの意味も正確な情報は全くない。

命中が+3される代わりに火力4下がる装備に変更する利点が定量的には全く判断できない。それどころか装備を積むことで変化する数字が実際の戦闘では一切参照されない値なんてこともある(知ってる限りだと対潜値。装備と艦の値の合算が表示されているが、実際に戦闘でダメージ計算に用いられるのは装備と艦の値は別々だ。ついでに言うと装備のほうが艦の値より10倍効くので対潜装備を積む場合、艦の対潜値と言うのは誤差みたいなものになる)。

こういったことも戦闘回数を重ねればある程度は見えてくるが、見えてくるまでに必要な戦闘回数は膨大だ。ちょくちょくインタビューなどで開発者が情報を小出しに出しているが、神の視点を持つ開発者のリークくらいしかまともにゲームの情報がないというのは問題だ。

ゲームの画面を見ていて受け取れる情報量が少なすぎる。

それでもダメージの数値からある程度攻撃力に関するメカニクスは読み取れるが、それ以外は無理だ。この辺、ちょいと前時代的過ぎる。ファミコン世代のRPGじゃないんだから。

これだけ戦闘メカニクスがわかりにくいのに、それを前提に必要なことは見切ったと確信できる程度に理解しろ、というのは少々酷だ。

必要なリトライと無駄なリトライの差がわかりづらく、リトライ自体が苦痛になる。

無駄を排除する内政とリトライを重ねることが前提の戦闘が互いに矛盾する。

艦これが抱える構造上の欠陥だ。

今後艦これの運ゲーっぷりは加速する

艦これは現状、育生限界に対して敵が弱すぎる。手持ちの戦力に対して敵が弱すぎる。端的にいうと、ヌルくてつまんない。

という状況を放置するはずないので、今後はますます「難しい」海域が投入されるはずだ。より「サイコロを選ぶ能力」の比重は上がるであろう。

すると必然、その能力が不足する提督にとって「運ゲー」でしかない海域は増えることになる。今はまだ「夜戦海域は運ゲー」程度の認識だろうが、いずれすべての海域は5-3や秋イベントが可愛く見えるような難易度に到達するだろう。

その時、今のままだとちょいと問題ではないだろうか? 戦闘側のメカニクスが、たいていの提督に把握できるようにならないと今以上にまともにプレイできない提督が増えてしまうだろう。

根本的な原因は内政と戦闘のメカニクスの衝突だが、そのくらいの矛盾はどんなゲームにもある。むしろ矛盾をはらむからこそ面白くなる事が多い。だから、根幹のメカニクスをいじる必要はない。戦闘中に全く操作できないのも、このままでいい。そこは譲ってはいけない部分だ。でないと、違うゲームになってしまう。

だが、だからこそプレイ中に受け取れる情報量を増やす必要がある。少なくとも、戦闘中の内部処理、それらをもっと提督が把握できるような演出をするべきだ。今のままだと想像はできても把握は困難だ。

艦これは運ゲーだ。だがクソゲーとは対極の存在だ。そのことをプレイした誰もが当たり前に理解できる、そんな改善を期待したい。

 

P.S.

自分で読み返してもこのエントリ「タイトルが不適切だなぁ」「誤読を誘発する読みづらい文章構造だなぁ」と思うので恐縮なのですが。指摘させていただくと、

  • このエントリは「艦これが運ゲーかどうか」を論じたものではありません
  • このエントリは「艦これが運ゲーであることの是非」を論じたものではありません

え? と思われた方は内容を誤解されています。

 

P.S.2

じゃぁこのエントリはなにが書いてあるのかというと

  • 艦これの戦闘は端的にいうと「運ゲー
  • 艦これの内政は「無駄遣いをしないゲーム」
  • 戦闘と内政が根本的に矛盾してる
  • 理解しやすい内政を理解するほど、矛盾する戦闘が苦痛になる
  • 戦闘のメカニクスが理解できるとこの矛盾は面白さの源泉になる

という話をしてます。

その上で、戦闘メカニクスのわかりづらさは

  • マスクデータの多さ
  • 戦闘中の内部処理のわかりにくさ

に起因すると推測し、この点が改善されることでより遊びやすいゲームになるのではないか、という結論を導いています。

 

P.S.3

結論は上記の通りですが、マスクデータを全て開示すべきだとは思っていません

ご指摘がある通り、全部開示すると今度は攻略すべき要素が消えてただの作業になります。それでは面白く無いですよね。

シングルのStrategyの場合、敵とはプレイヤーに倒されるまで待っている障害です。よって攻略法が確立し、それが唯一無二だった場合、正しい手順で操作を入力する作業になり下がります。それを防ぐためマスクデータが必要です。現実における不確定要素(いわゆる『戦場の霧』)の再現ですね。

 

P.S.4

ゲームのジャンル名としてStrategyと言う場合、別に「戦略級」のゲームに限定されません。ざっくり論理的な判断に重きが置かれたゲーム、くらいの広い範囲を指すように思います(SteamでジャンルStrategyに分類されてるゲームを見ていただくとそう感じられるかと思います)。シューティング、といった場合FPSやTPSにスクロールシューティング、挙句にはカジュアルなフライトシムまで含むのと同じ感じでしょうか。

また戦略という言葉、自分は「戦略・作戦・戦術・兵站」の4つを並べて説明するスタイルの言い回しを念頭において使っています。

このことが理解できる方向けに説明すると、艦これは作戦と兵站に焦点があたっていて、作戦の部位が戦闘、兵站の部位が内政、にそれぞれあたります。そう捉えると割りとスッキリされるのではないでしょうか。

余談ですが、よく攻略記事で「作戦と準備」という言い回しをするのも「兵站」という言葉はたいてい正しく理解されないのでニュアンスが近い言い回しになると感じる「準備」という単語に言い換えてるからです。言わんとしてることは「作戦と兵站」になります。

 

P.S.5

例として夜戦海域の話をしたからか、夜戦海域の話をしたがる方もいらっしゃるようですね。

正攻法に関しては

艦これ攻略:5-3(サブ島沖海域)『第一次サーモン沖海戦』攻略 - 絶賛墜落中の空中遊園地

というエントリで書いています。

このエントリを書いた段階ではまだネット上にまとまった夜戦海域の攻略情報はなかった(少なくとも自分が知っていた範囲では)かと思います。つまり今となっては洗練されてない、特別面白いことが書いてある訳じゃないエントリです。

ただ、まだクリアされてない方のお役には立つかも知れません。

 

なお、正攻法、とわざわざ表記した以上、正攻法ではない方法もあります。

「潜水艦4隻以上の魚雷カットイン装備、夜戦開始は梯形陣、昼開始は単縦陣」というのがそれです。正攻法で真面目にやってたのがバカバカしくなると思います。

ちなみに現在は潜水艦6隻体制が可能ですが、昼海域だと単縦陣で全ての海域をクリア可能です。

 

P.S.6

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